京都市で路上飲食が大きな問題となったのは5年ほど前のことだ。海外の旅行雑誌で、連続2年、人気観光地の世界1位に選ばれ、観光客数は年間5500万人越え。宿泊者の実数も300万人を超えており、観光業界とお役所が、売上げや税収の上昇、市バスや地下鉄の利用者増でウハウハ状態だった「コロナ前」の話である。
京都は学生の町であり、市内には相当数の学生マンションがあるが、それらの一部が外国人旅行者向け民泊に衣替えし、空き家だった京町家を小綺麗に改装した民泊も、雨後の筍さながらに増えていた。その立地は、いずれも住宅地である。
宿泊客の2割を超える中国からの観光客のマナーの悪さが、しばしば問題とされた。連中は、ところ構わずケータイを構えて自撮りに励む。花見小路では舞妓さんを触ったり、着物を引っ張ったり、撮影のためにポーズを取らせようとしたり、と、傍若無人の振る舞い。立ち食い歩きは「当然」で、そこでできたゴミはポイ捨て。混雑する四条河原町の交差点でさえ信号を守らず、赤信号で横断歩道を歩くので、しばしばクラクションが響き渡った。
そして夜。以下は、清水寺から徒歩圏内の住宅地に住む知人(Aさんとする)に聞いた話である。
彼女の家の道路を挟んだ斜め向かいには、企業の社員寮があったが、そこがいきなり中国人観光客用の宿泊施設に変わった。地域住民への事前の説明は何もなく、工事が始まったのを見た自治会の役員さんが問い合わせてようやく、宿泊施設に変わることが分かった。施主は元の企業ではなく、地元には縁のない会社だった。
元社員寮である。個々の部屋は単身者用に作られていたのか、無理をすれば2人が泊まれる広さ(狭さ)しかない。家族連れやグループの観光客は、夜になると路上に出て、飲んで食べてしゃべっての宴会が始まる。それも、夜な夜な。朝になると、路上にゴミや空き缶が放置されている。Aさんたちは毎朝、その後片付けに追われる。
「宴会をやめるように注意しなかったんですか?」と私。
「いやぁ、怖ぅて、そんなもん、誰もようせんわ」と彼女。
たしかにね、中国語は語調がきついし(私、大学で中国語を選択していた)、人々の自己主張も強いお国柄だからねー。
お金持ちの中国人は、全身をヨーロッパや中東のブランド服で着飾り、我ら庶民が泊まれないような高級ホテル(1泊の料金が2桁以上)に泊まる。昼食でも1万円以上かかる三嶋亭(すき焼きの有名店)からこういう人たちが出てくるのを、私は何度も目撃している。
一方で、節約型旅行者に人気なのが、デパ地下である。京都駅に直結する伊勢丹では、夕方5時〜6時ごろになると中国人観光客が集まり始める。とりわけ人気は寿司コーナーだ。彼ら、彼女らはあちこちにたむろして、くちゃくちゃおしゃべり。お店の人が割引シールを貼りにくるのを待っているのだ。
一度だけ、参戦したことがある。いい歳をした60過ぎのバァさん(=私)が恐怖を覚えるほど、連中の「奪い合い」は迫力満点だった。
デパ地下で獲得した割引惣菜やお寿司が、路上宴会のアテになる。たくましい(ぼそり)。
* * *
新型コロナの蔓延は、様相を一変させた。民泊は次々に潰れ(ざまみろ気分が私の中にあることを正直に認める)、住宅地は静かになった。
代わりに今、鴨川のほとりが、路上飲酒の「会場」になっている。日本人である。私は京阪三条でパンを買った帰り道に三条大橋を通るのだが、鴨川の河川敷は、午後の早い時間であっても、いつも7、8割方は埋まっている。さすがにアルコールを飲んだくれているグループは見かけないが、スタバ(すぐ近くにある)のカップを手にしている若者は少なくない。これは、ゆっくり滞在を楽しむ連中の特徴の1つである。
夜になると、これに食べ物とアルコールが加わるというわけだ。
ゴールデンウイーク中は、京都府警が鴨川や京都駅周辺をパトロールするそうな。
そういうレベルに、今の日本人たちの常識・モラルやマナーは落ちている。
どうやら日本社会は「後進国」の仲間入りを果たしつつあるようだ。
京都は学生の町であり、市内には相当数の学生マンションがあるが、それらの一部が外国人旅行者向け民泊に衣替えし、空き家だった京町家を小綺麗に改装した民泊も、雨後の筍さながらに増えていた。その立地は、いずれも住宅地である。
宿泊客の2割を超える中国からの観光客のマナーの悪さが、しばしば問題とされた。連中は、ところ構わずケータイを構えて自撮りに励む。花見小路では舞妓さんを触ったり、着物を引っ張ったり、撮影のためにポーズを取らせようとしたり、と、傍若無人の振る舞い。立ち食い歩きは「当然」で、そこでできたゴミはポイ捨て。混雑する四条河原町の交差点でさえ信号を守らず、赤信号で横断歩道を歩くので、しばしばクラクションが響き渡った。
そして夜。以下は、清水寺から徒歩圏内の住宅地に住む知人(Aさんとする)に聞いた話である。
彼女の家の道路を挟んだ斜め向かいには、企業の社員寮があったが、そこがいきなり中国人観光客用の宿泊施設に変わった。地域住民への事前の説明は何もなく、工事が始まったのを見た自治会の役員さんが問い合わせてようやく、宿泊施設に変わることが分かった。施主は元の企業ではなく、地元には縁のない会社だった。
元社員寮である。個々の部屋は単身者用に作られていたのか、無理をすれば2人が泊まれる広さ(狭さ)しかない。家族連れやグループの観光客は、夜になると路上に出て、飲んで食べてしゃべっての宴会が始まる。それも、夜な夜な。朝になると、路上にゴミや空き缶が放置されている。Aさんたちは毎朝、その後片付けに追われる。
「宴会をやめるように注意しなかったんですか?」と私。
「いやぁ、怖ぅて、そんなもん、誰もようせんわ」と彼女。
たしかにね、中国語は語調がきついし(私、大学で中国語を選択していた)、人々の自己主張も強いお国柄だからねー。
お金持ちの中国人は、全身をヨーロッパや中東のブランド服で着飾り、我ら庶民が泊まれないような高級ホテル(1泊の料金が2桁以上)に泊まる。昼食でも1万円以上かかる三嶋亭(すき焼きの有名店)からこういう人たちが出てくるのを、私は何度も目撃している。
一方で、節約型旅行者に人気なのが、デパ地下である。京都駅に直結する伊勢丹では、夕方5時〜6時ごろになると中国人観光客が集まり始める。とりわけ人気は寿司コーナーだ。彼ら、彼女らはあちこちにたむろして、くちゃくちゃおしゃべり。お店の人が割引シールを貼りにくるのを待っているのだ。
一度だけ、参戦したことがある。いい歳をした60過ぎのバァさん(=私)が恐怖を覚えるほど、連中の「奪い合い」は迫力満点だった。
デパ地下で獲得した割引惣菜やお寿司が、路上宴会のアテになる。たくましい(ぼそり)。
* * *
新型コロナの蔓延は、様相を一変させた。民泊は次々に潰れ(ざまみろ気分が私の中にあることを正直に認める)、住宅地は静かになった。
代わりに今、鴨川のほとりが、路上飲酒の「会場」になっている。日本人である。私は京阪三条でパンを買った帰り道に三条大橋を通るのだが、鴨川の河川敷は、午後の早い時間であっても、いつも7、8割方は埋まっている。さすがにアルコールを飲んだくれているグループは見かけないが、スタバ(すぐ近くにある)のカップを手にしている若者は少なくない。これは、ゆっくり滞在を楽しむ連中の特徴の1つである。
夜になると、これに食べ物とアルコールが加わるというわけだ。
ゴールデンウイーク中は、京都府警が鴨川や京都駅周辺をパトロールするそうな。
そういうレベルに、今の日本人たちの常識・モラルやマナーは落ちている。
どうやら日本社会は「後進国」の仲間入りを果たしつつあるようだ。